2011年02月23日


YMCAの機関誌に掲載された、コラムを転載します。

「和人とアイヌとを結びあわせた物語」
(日本福音ルーテル本郷教会牧師 安井宣生)

「銀のしずく降る降るまわりに」で知られた知里幸恵は、アイヌ民族出身で、文字を持たないアイヌの口伝承を文字化し、日本語に翻訳し『アイヌ神謡集』として世に送り出した女性です。

彼女を見いだし、その働きを支えたのは国語学者の金田一京助です。
知里は金田一宅で『アイヌ神謡集』の出版準備のために三カ月余りを過ごしますが、それは彼女の地上での最後の時間となりました。彼女は『アイヌ神謡集』の校正をすべて終えたその晩に心臓疾患のために神の懐へ召されたのです。
1922年のことです。わずか19年の生涯でした。

亡くなった金田一宅の隣に現在私が暮らしている教会があります。当時ここに教会はなく、およそ50年後に教会が建てられたのは偶然ですが、最近このことを知った私は、偶然を超えた導きを感じています。

知里の生きる姿は、命を削るようにして編さん纂・翻訳された『アイヌ神謡集』とその序文の雄大で清々しいメッセージとともに、人の心を激しく揺さぶる力に満ちています。

それは知里が生まれたアイヌ民族の物語を紡ぎ伝えるプロセスにおいて、語り手と聞き手、紡ぎ手と受け手とが単に文字の受け渡しではなく、「言葉」とそれを発する存在の行き来によって育まれてきたことと無関係ではないと思います。

発せられた「言葉」が受け手をも共に紡ぐ者とし、さらに伝え手として動かしていく。そうやって物語とそれを生み出した自然の豊かさと厳しさ、また自然に逆ら わずに生きる恵みが受け継がれ、自然と人、カムイ(アイヌ語で高位の霊的存在)とアイ ヌとを結び合わせてきたのです。文字の伝達ではなく「言葉」と生き方を通してその愛を伝え、それを受け取る人に人生の新しい一歩を踏み出させる励ましを与え、神と人を結ぶのはイエス・キリストです。自分という存在を差し出して愛する、このキリストを知里は熱心に求め、受け取り、それに従う道を歩みました。そして彼女の取り組みは、アイヌの文化を奪い差別と偏見をもたらした和人とアイヌとを結び合わせる物語となりました。

「言葉」が人を生かすことに信頼し、語り、聞いて、共に生きることを教えられます。



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